かつて瀬戸内海を航海する船にとって難所中の難所。その激しい潮流と生き物のような渦潮は多くの命を呑み込み、金龍が棲むと恐れられるほどでした。

約40年前に橋が架かり、岩礁が取り除かれたためか現在は干満の差がある大潮や中潮の日にしか渦は巻きません。流れ込む潮が栄養源を運んでくる良い漁場で、かつての恐ろしい姿はどこ吹く風ぞ、鯛釣りのメッカになっています。

瀬戸内でよく見られるのどかな風景ですが、この海の底に竜宮城があると聞いたらどうでしょう?「ああ、浦島太郎ね」と早合点することなかれ、あの恐ろしい金龍の棲み処かもしれないのです。

古い文献をひも解くと、「大畠瀬戸の約82mの深みに龍神屋敷と呼ばれる岩がある。これを龍宮城と呼び、龍燈はここから上る」(現代意訳)と書かれています。海域を調べると、記述のとおり唐突に深くなるポイントがあり、その近くに「龍燈」と刻まれた灯籠(2013年再建)が建っています。

では、なぜ「釣り糸を垂らしたら龍が釣れて食べられてしまった!」ということが起こらないのでしょう?それは時の帝に見初められたほどの絶世の美女「般若姫(はんにゃひめ)」が生け贄となり龍を鎮めているからです。

今から約1400年前のこと。荒ぶる金龍は多くの船を沈める大嵐を起こしました。その怒りは般若姫を差し出すことでしか鎮まらないと言い、姫はお供の制止を振り切りみずから渦に身を投じました。その死の間際、「二度と事故が起こらないよう、瀬戸の守り神となります。私の亡骸をあの山に葬って下さい」と言い残して……

般若姫がそう指を差した山の頂きに「般若寺」が建っています。1400年もの間、般若姫を祀り、大畠瀬戸を見守り続ける山寺です。

所在地〒742-0031 山口県柳井市
ホームページ https://setouchifinder.com/ja/detail/330

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